4.風力発電のCO2削減効果について
ある地方自治体では、風力発電を動かす場合にCO2削減効果について、特定の風力発電機を前提に、「風力発電機1基当たりの年間発電量は約1千万kwhです。一方風力発電機を動かすために使用する電気は約6000kwhです。規模にもよりますが、風力発電機が1基建設されますと、建設されない場合と比べ、火力発電量を約999万kwh抑えることになり、CO2の削減につながります。」と言っています。
Q こんな単純な計算でよいのでしょうか?
A(武田回答)
これは按分計算に過ぎません。原理的には、近くに水力発電所ではなくて、火力発電所があって、電力系統の誤差の範囲を越える発電を風力発電所がして、その分を近くの火力発電所が蒸気を捨てるだけではなくて、燃料消費を減らす対応ができれば削減できるとなります。しかし、中部電力では現実にはそのようなデータは見つかりません。電力系統全体からすると誤差の範囲の発電量しかないことが多いことが大きいようですが。
5.JIS規格の安全性
ある地方自治体では、平成30年に淡路島で倒壊した風車と比べて、「現在の風車は国際基準より厳しい「発電施設のJIS規格」により建てられていますので、安全性は格段に向上しています」と言っています。
Q 「JIS規格」に従って建設された風車は本当に安全なのですか? 。
A(武田回答)
JIS規格は基本的な規格に過ぎません。メーカー各社のHPをみても最近特に性能や安全性が各段に向上したとは言えず、単に大型になっただけで、規格もそれに合わせただけと言えそうです。JIS規格は安全性の保証をするような規格ではありません。安全性の保証は各製品ごとになります。
淡路島や京都府太鼓山、三重県の青山高原などでの倒壊の原因は停電により自動停止装置が働かなくなったことによる過回転が原因で、これはどんな規格であろうとも強風時に停電すれば起こり得ます。風車は電気モーターで強制的に風上に向けて発電し、電力装置で風が強い時のフェザリング(羽根の角度変え)や停止などをするので、停電すると停止も発電もできなくなります。
和歌山県日の岬の例のように、構造や機器自体に問題がなくて、停電でブレーキが作動して停止した場合でも、風向が変わった場合にはそれに対応できず、倒壊した例もあります。風向が変わるというのはごく普通にあることなので、停電したらいつでも倒壊が起こり得るということです。風車の安全装置はすべて電気制御なのです。
参考資料
日の岬ウインドパーク風力発電所の 倒壊事故について(中間報告)
わかりにくいですが、p.12の「3.調査結果から推定される座屈フロー」から読んで行くとわかりやすいです。
このように規格がどうであろうと、停電すると倒壊する危険からは逃れられないと言って良いでしょう。
6.風力発電の経済性
「風力や太陽光は、無償で無限に利用できる資源で、既に原子力や火力より安価なエネルギーと言われてます」と説明する人もいるようですが
Q バックアップ電源を必要とすることを考慮すると安価ではないのではないでしょうか?
A(武田回答)
本当に安価に発電できるのならFIT価格など風力発電の売電単価をもっと下げられるはずですが、業界は「もっと高く買ってくれないと苦しい」と言っており、秋田県の洋上風力事業を11.1円/kWh(32円が上限だった)という安価で落札した三菱商事は業界や専門家から非難され、経産省も安価で落札できないように入札条件を改正しました。東京大学の論文「洋上風力発電拡大に伴う国民負担の低減を如何に進めるか」(東京大学公共政策大学院 本部和彦、立花慶治2021)でも、現在のFIT価格での風力発電事業は難しいとしており、イギリスの「風力発電の経済学、レトリックと現実」(エジンバラ大学 ゴードンヒュージ教授)も「風力発電のコストは下がらず、政府は今後風力発電事業者や金融機関の救済をしなくてはならなくなるだろう」としています。安価な発電と言う実態は世界的にも実はなく、将来的にも無理なようです。
7.巨大化した風車の影響
最近建設が計画されている風車は、過去に建てられてきたものより、高さも出力もかなり大規模なものです。
Q このような開発規模を考慮して、自然生態系、森林の水源涵養や土砂災害防止機能、住民の生活への影響はどのように予想されますか
A(金井塚回答)
この件に関しては、
→ 大規模風力発電の問題点
→ 森林生態系を破壊するメガソーラー・風力発電計画
→ 西中国山地における風力発電計画に対する意見書(アセス方法書)
をよく読んでみてください。
生物の世界は多様ですので、一言で回答するのはなかなか困難です。
回答者
武田恵世先生(歯学博士)
金井塚務先生(森林生態学者・広島フィールドミュージアム代表)