保安林や緑の回廊など水源地だったり、貴重な自然の残る山の尾根筋を削り、高さ、百数十mから200mの巨大風車を数十基から200基近く建設する計画が、東北や北海道を中心に、全国で進んでいます。
巨大風車群建設の問題点について専門家に聞いてみました。
回答者プロフィール
武田 恵世
歯科博士、三重県で歯科医をしながら、地元である青山高原の風車群をはじめ、全国の大規模風力発電施設の引き起こす問題に取り組む。日本生態学会、日本鳥学会会員、環境省希少動植物種保存推進員、三重県レッドデータブック作成委員会委員などを務める。
金井塚 務
猿学者、環境NGO広島フィールドミュージアム代表、⽇本森林⽣態系保護ネットワーク代表、埼⽟⼤学理学部 卒業。1977年から、宮島でニホンザルの研究とその成果を⽣かした野外博物館活動を展開。全国の森林開発問題に取り組む。
1. 健康被害について
Q1 環境省は「風力発電の騒音が健康に直接影響する可能性は低い」と示していますが、風力発電による健康被害は実際に出ていないのでしょうか?
A(武田回答)
睡眠障害や頭痛などの健康被害は全国的、世界的に発生しており、環境省の報告書でも認めており、日本騒音学会、日本騒音制御工学会、日本公衆衛生学会などの論文にも記載されている事実に過ぎません。三重県の青山高原や愛知県田原市などでは、被害者宅全戸に2重サッシとエアコンを設置して対応しています。
「環境省の「風力発電施設から発生する騒音に関する指針について(平成28年)」の文章の中で、事業者の多くが抜き出して主張する部分は「風車騒音は、わずらわしさ(アノイアンス)に伴う睡眠影響を生じる可能性はあるものの、人の健康に直接的に影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。」なのですが、重視すべきは前段の「わずらわしさ(アノイアンス)に伴う睡眠影響を生じる可能性はある」の方です。
あるいは「風力発電施設から発生する騒音等への対応について平成28年検討会報告書」によれば、「これまでに国内外で得られた研究結果を踏まえると、風力発電施設から発生する騒音が人の健康に直接的に影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。―――また、風力発電施設から発生する超低周波音・低周波音と健康影響については、明らかな関連を示す知見は確認できない」を事業者は抜き出すのですが、
重要なことは次の文章、「風力発電施設から発生する騒音に含まれる振幅変調音や純音性成分等は、わずらわしさ(アノイアンス)を増加させる傾向がある。静かな環境では、風力発電施設から発生する騒音が 35~40dB を超過すると、わずらわしさ(アノイアンス)の程度が上がり、睡眠への影響のリスクを増加させる可能性があることが示唆されている」の方です。
つまり、「人の健康に直接的に影響を及ぼす可能性は低いと考えられる」が「睡眠への影響のリスクを増加させる可能性があることが示唆されている」と、「健康影響の可能性は低い」が「睡眠障害のリスクを増加させる可能性が示唆」という奇妙な文章になっています。
睡眠障害は万病の元であることは議論の余地などないことで、環境省は「可能性」、「示唆」とこの時点で調べたことを羅列しているに過ぎません。
私たちが病気で入院してまずすることは、十分な睡眠をとることで、睡眠を十分とることでほとんど病気がよくなり、病気の予防にも最も重要な事とされています。
その睡眠を妨げるのは重大な健康被害なのですが、この報告書では「直接の影響」という表現で、睡眠障害の問題を飛ばしているに過ぎません。
2.森林破壊、土砂災害について
ある地方自治体では、「工事終了後、施設の管理に必要な部分だけを残し植林することで、最終的に減少する森林面積は、道路も含め6ha」と説明しています。工事の土地改変面積は13.6haで、7.6㏊に木を植えると言っていることになります。
Q1 そもそもそれだけ植林をできるのでしょうか?
A(武田回答)
それだけの十分な資金があればということでしょう。
三重県の青山高原では冷涼な気候の影響もあり、樹木の生育が極めて悪く、獣害防止柵を設置してもシカなどに食べられ、結局毒草であるアセビ以外の樹木はほとんど育っていないのですが、そのアセビも生育が悪く、崩れ続けています。
A(金井塚回答)
植林は可能としても、それがまともに成長するかどうかは別の問題です。表土層(腐葉土)が取り除かれた、基質土壌に植林してもまともに成長する可能性はほぼありません。どんな樹種をどのような土壌条件の所に植林するのかわからなければ、予想もできません。
Q2 仮に植林ができたとして、土砂災害や法面崩壊のおそれは無くなるのでしょうか?
A(武田回答)
三重県の青山高原は比較的なだらかな高原ですが、何度修復しても崩れ続け、修復をあきらめて10年以上様子を見続けている崩壊箇所、市道の地滑りの修復をあきらめて橋を新設した現場もあります。
A(金井塚回答)
仮に植林が成功したとしても、根が土壌をつかむほどに成長するには相当な年月を要します。植林する樹木がスギやヒノキのような直根を伸ばさず、表面近くを水へに伸びる樹種では土砂災害や法面崩落を引き起こす可能性はかなり高いとみるべきでしょう。植林と天然生では同じ樹種でもその根の張り方に大きな違いがあり、植栽樹は概ね根が浅く倒れやすいとみていいと思います。
3 廃棄費用
FITのガイドラインでは、廃棄費用を積み立てておくようにとされています。太陽光発電では義務になりましたが、風力発電では義務でありません。
Q 現在稼働している風力発電では、1億を超えると言われる廃棄費用を積み立てているのでしょうか?
A(武田回答)
経産省の認定情報一覧表を見ると「公開不同意」しかないので、わかりません。
ただ、太陽光の場合でも「FIT期間終了10年前から積み立てる事」となっています。つまり完成後10年間は積み立てなくても良いとされています。
ということは、工事中や完成後10年間に何かあった場合、合同会社、特別目的会社が行っている場合は「責任は出資金の範囲」とされているので、出資金の範囲の責任をとって放棄しても良いとされ、後始末は地主の責任となってしまいます。
土砂崩れなどが起こった場合、自然林や人工林の自然災害だと治山事業など公的な事業でまかなわれ、林業地や林道だと、様々な補助や優遇政策があるのですが、風力発電事業など人工物を建てた場合はそうした公的な事業や補助は一切使えず、地主の自己負担による責任となります。
回答者
武田恵世先生(歯学博士)
金井塚務先生(森林生態学者・広島フィールドミュージアム代表)